東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)146号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、ガスボンベ付こんろの安全装置として、ガス通路における過圧をシリンダー内のピストンによつて検出し、このピストンの移動を起動源として利用して、バルブ本体(3)を移動させるものではあるが、ガス供給部材とガスボンベとを相対的に移動させて、それらを離間し、ガス過圧時に自動的にガス噴出を停止するようにして事故防止をはかる装置が示されており、ガスボンベ付こんろの安全装置である本願発明における原告主張<1>の技術的思想が開示されていることが認められる。
次に成立に争いのない甲第四号証の一によれば、第二引用例に記載されているものは、ガスボンベ付ガスコンロの安全装置として本願発明と同一技術分野に属する考案であつて、こんろ上面のガスボンベの近傍に、上下に摺動自在に装嵌した摺動杆を突出させ、この摺動杆14を挺子を介してガスボンベ押動用の押圧杆と連係させることにより、押圧杆の押動が解除されてガスボンベを後方へ移動・退避させる装置が示されている。したがつて摺動杆の移動(下降)を利用して挺子(解除レバー)を介して連係させられている規制片の押圧が解除されてガスボンベをガス供給部材から後方へ移動・退避させる具体的技術が開示されているものと認められる。
そうすると、第一引用例におけるガス過圧に基くピストンの移動を起動源として、ガス供給部材とガスボンベを離間させるための手段として、第二引用例に示されたガスボンベ押圧用の押圧杆と挺子を介して連係させられた摺動杆に圧力を加えることにより、押圧杆の押動を解除してガスボンベを後方へ移動・退避させる構成を採用することは容易に想到することができるものといわねばならない。
さらに前掲第四号証の一及び弁論の全趣旨によれば、第二引用例のものにおいても、押圧杆による後方からの押圧力が解除されたときに後退・移動するのは、ガスボンベ自体が通常備える封止手段であるバネ等の付勢力が、ガスコンロ本体側のガス供給部材とガスボンベとの間に作用して、(押圧・装着時にはガス噴出口を開放してガスを供給し、)押圧力が解除された時に常にガスボンベを後方に解放して噴出口を閉じ、ガスの供給を停止させる作用に主として依拠するものであることが推認されるのであつて、成立について争いのない甲第二号証の一、二によれば、このことは本願発明における装置においても同様であつて、その原告主張<3>のバネ片を設ける構成については、「ガスボンベの前端には同ボンベを常に解放方向へ付勢するために、前記ガスボンベ室の一部に固着されたバネ片の先端を係合する」(甲第二号証の二、一頁九行ないし一一行)「10はバネ片で、前記ガスボンベ20の前端に当接し、同ボンベ20を常に解放方向(図示右方向)へ付勢しうるように、前記ガスボンベ室2の底板4上に固着されている。」(甲第二号証の一、三頁一六行ないし一九行)、「とくに、ガスボンベの前端には同ボンベを常に解放方向へ付勢するために、ガスボンベ室の一部に固着されたバネ片の先端を係合したものであるから、ガスボンベをガス供給系路より積極的に避退させることができる。」と明細書上の記載があるだけで、それ以上何らの限定がないばかりか、ガスボンベ室の底板に固着されているものである上に、明細書添付図面の第1図、第2図に示された実施例を参照してもバネ片の変形量は僅少なものに過ぎないから、前記認定のようにそれ自体封止手段として後退・移動することが可能な付勢力を備えるガスボンベを、押圧・装着する際のガスコンロ本体側(ガス供給部材側)の装着手段として、ガスボンベの前端に当接するバネ片をガスボンベ室の一部に固着して設け、ガスボンベ前端と係合させることは、機械器具の取付手段として極めて普通に行われていることで、その構成による効果もガスボンベ自体の備える付勢力を僅かに助勢する程度のものとしか推認できないから、かかるバネ片を付加する程度のことは、前示のように、第一引用例のものに第二引用例のものを適用する際、当業者が必要に応じて採用しうる設計事項の範囲内のことと認められる。
以上のとおり、本願発明における特徴として原告が主張する構成は、第一引用例および第二引用例に基いて当業者が容易に推考することができたものというべく、したがつてまたその構成による効果も、各引用例および技術常識から予測することができたものというべく、前掲各証拠を検討してみても格別のものということはできない。
三 結局、審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、これを理由としてその取消を求める原告の請求は失当として棄却するほかない。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ガスボンベを装填するガスボンベ付こんろには、次のAからEまでを要件として構成される安全手段を附設したことを特徴とするガスボンベ付こんろの安全装置。
A 前記ガスボンベ付こんろに備えたガスボンベ室には前記ガスボンベをガスの供給および中断可能に横架すること。
B 前記ガスボンベの前端には同ボンベを常に解放方向へ付勢するために、前記ガスボンベ室の一部に固着されたバネ片の先端を係合すること。
C 前記ガスボンベの後端は、前記ガスボンベ室の一部に対し回動可能にピン着された規制片で解放可能に押動されること。
D 前記規制片には前記ガスボンベ室の一部に対し揺動可能にピン着された解除レバーの一端を解放可能に当接させること。
E そして、供給されるガスの過圧時には、ピストンロツドより前記解除レバーを介して前記規制片の規制力を解放して前記ガスボンベが前記バネ片の反発力にてガスの供給を中断し得るように、供給されるガスの通路の一部に対しそのガスの過圧力に対応して作動されるピストンより延出されたピストンロツドの先端を前記解除レバーの他端に対し連結すること。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一) 本願発明
<省略>